使用音楽機材レビュー

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YAMAHA EX5

YAMAHA EX5 当時YAMAHAが技術の粋を集めて万を持して音楽業界に送り込んだ、未だ現役のフラッグシップシンセ。一応ウチのメインシンセサイザー。複数の音源を組み合わせて音を作り出すことが出来る、ハイブリッドシンセです。こういったシンセはその後どのメーカーも発売しておらず、そういった意味ではある意味イロモノシンセなのかも知れません。

この機材の登場は当時非常に話題になり、良くも悪くも様々な論議を呼ぶこととなりました。……そういや教授がイメージキャラやってたなぁ。

ラインナップはフルスペック76鍵モデルの本機「EX5」、一部機能を省いた3Uラック版の「EX5R」、そして「EX5」からVL音源などさらに複数の機能を省き61鍵モデルとした「EX7」があります。あと限定モデルとして「EX5」のシルバーメタリックモデル(スペックは同一)「EX5S」も発売されました。

音のほうは一音豪華主義、とでも言いましょうか、とにかく一音一音の波形が贅沢です。プリセットの音色に関しては基本的にエディットせずとも十分に高品位の音色を出してくれるあたり、さすが商用音源というだけのことはあります(逆にエディットしだすとパラメータが膨大なためやたら時間がかかります)。具体的な搭載音源としてはYAMAHAおなじみのAWM2(PCM音源)の他に、VL、AN、FDSP(これは音源というよりはエフェクトですけど)、そしてサンプラー(サンプルプレイバックではない)という、おいしいところ全部取り、みたいな豪華絢爛なシンセです(笑)。もっともこの後に発売されているMOTIFやMU2000に代表されるYAMAHAの機材には「Moduler Synthesis Plug-in System」という音源拡張システムが搭載されるようになり、EXの絶対的なアドバンテージとは呼べなくなってしまいましたが(苦笑)。

さてこの「EX5」ですが。音色全体を通して言えるのは上にも書きましたが、とにかく波形の素性がよいこと。そして意外なのはプリセットされている音色の多くがPCM音源だったりすることです。複雑な倍音などで構成されている音色もあったりして、FDSPやAN、VL音源を使っているんだろうなー、と思うような音色も、実はただのPCMにエフェクトを組み合わせただけのものだったりして驚くこともしばしばで、PCMとエフェクトだけでも十分に使える音を出してくれる所がポイントです。波形が素直なものが多いのに、加工次第でどうとでも出音を変えられるだけの品質を持っているため、詰めれば詰めるだけ要求に応えてくれます。

YAMAHA EX5R これはEXのDSP制限からくるリソースの有効活用という点から見ても、そして単純に音作りをしていくという点から見ても大きなメリットだと思います。このあたりは感覚的な部分なので表現するのが難しいですが、こういったPCM波形の素性のよさでは、最近の機材にも見られない特徴だと思います。これに付加的にANやVLなどを組み合わせる使い方をすることで、更に音作りにバリエーションが出てくるわけですな。

また私が感じるところではD/Aまわりの回路がかなり良いらしく、そういった意味での最終的な出音は同社の最新型フラッグシップシンセ「MOTIF」より良いように感じます。あとエフェクトもかなりいい線いっています。空間系の音色(定位がぼやけていたりステレオっぽく広がった音)については文句ナシですね、ここら辺はそこいらの機材では出せないと思います。

私はオケ系やきれい系の曲を制作することが多いせいか、ストリングス、パッドなどを重点的に使っていますが、特筆物はストリングス。汎用性が高いのにも関わらずある程度の生っぽさも持っていて、さらにバッキングに流し込むシンセストリングスのようにも使える優れもの!そしてその波形の美しさは感動モノです。とにかく図太く音やせのないこの音を使ったら他の機材のストリングスは使えません(言いすぎ)。キレイなコード進行を思わず弾きたくなる音に仕上がってます。愛用している音色のひとつなので、拙作公開楽曲などでも多用しています。

生音系ではピアノ・エレピ系もかなりリアルで発売当時から話題になりました(もっとも完璧と言うわけではなく、オケに埋もれてしまいやすいという弱点があり、そういった点では後型である「MOTIF」などのほうが主張がある音がするのですが……)。ここら辺はYAMAHAも自信があるらしく、例えば「CP80」なんていうそのものずばりの名前がついた音色もあったり(実際かなりのレベルでシミュレートされています)、なかなか通好みの出音が楽しめます。今でもこの系統の音色は愛用者が多く、プロの製作現場でも活躍、アマチュアでもこのピアノの音が欲しくて導入を狙っているなど、憧れの存在であるのも事実です。とにかく、ピアノ系なら演奏用としても使えるし、単音の存在感・音圧も圧倒的なので、音源の一つとして一台持っていると非常に重宝するのは間違いないです。まぁ欲を言えばピアノ・ストリングス系に顕著に見られる減衰部分・ループ部分のサンプリング・加工の甘さ(というか下手さ)。こればかりは正直聴く者をげんなりさせてくれるのでどうにかして欲しかったのですが(私はこれがYAMAHAの致命的な弱点だと思っているんですが……)。MOTIFでもあまり改善されてなかったからなぁ……。

あと、マルチティンバー部分ですが……。使いではほとんどありません(といってもここら辺は他社の機材でも同じですけど)。また、音に偏りもあります。が、エグイ音から超キレイ系の音までカバーしているので、オケの素材として落とし込むにはこれ以上ない素質を持っています。……つまり、1トラックとして出力する分には最強ですが、DTMマルチティンバー音源として使用するには決定的に向かないのでそこは注意が必要ですね、っていうことです(もっともEX導入当時、私はEXにマッチするような他のDTM機材を持ってなかったので、しばらくはムリヤリ使ってましたけども(苦笑))。

YAMAHA EX5S 具体的には注意して欲しいところとしては、内蔵音色数ですね。音色メモリーとしては512音色しか音が入っていません。ピアノやブラス、ストリングスなど、汎用性の高い音色こそ入っていますが、一般にDTMで必要とされるGM音色系統はほぼまったくと言っていいほど入っていないです。なのでまぁ当然ですがGMやXGなどのMIDIデータを正常に再生させることも出来ません。

「えっ、今どきそんなに音色数が少ないの?」と思われるかもしれまんが、この機材は最近には珍しいくらい「音を弄る」ことを要求されるシンセです。基本的には音を作ってナンボのシンセだと思ったほうがよいです。よって、一台で楽曲を完成させるのはかなり曲を選びますので、ポジションとしては「複数使用している機材の中の一台」という考え方が必要です。

さて、音色だけに注目がいきがちなこのEX5ですが、他にもマスターキーボードとしてもこれ以上無い資質を持っているのも特徴です。圧巻なのが最近の機材では類を見ないほどのコントローラーを持っていること。ピッチベンドホイールにモジュレーションホイール2本、MIDI端子も2系統、リボンコントローラー、アサイナブルなコントロールノブ6個に加え、更にブレスコントローラー端子までついている徹底ぶり(笑)。他にもイニシャル/アフタータッチはもちろんのこと、フットスイッチ、フットコントローラー、フットボリューム、サステインなどの各種ペダル端子に加え、鍵盤16ゾーン分割機能、キーマップ機能、オクターブキー、音をモーフィングできるシーン機能……などなど、おおよそ想定できるあらゆる制御が可能になっています。……ていうかここでは書ききれん機能の多さです(爆)。

個人的にはコントロールノブはもちろんですが、モジュレーションホイールが2本併装されているのがありがたいところですね。音作りする際にはアサインできるコントローラーはあればあるほどいいと思っているので、こういった仕様は大歓迎です。

そしてテンキーがあるのも大きなポイントです。私はどちらかというと音作りとオケ作りの段階ではPCよりシンセに向かっていることの方が多いため、各パラメータをエディットする際にテンキーを多用します。音を探る段階では各種コントローラノブを使い、ある程度方向性が決まったらテンキーをつかって細かくエディットしていく形です。また、ループものを作る場合や、場合によっては楽曲全体を内蔵のシーケンスを使って打ち込む場合もあるので、テンキーの存在は(私にとっては)非常に重要です。最近の機材ってテンキーが省かれることが多いんですよね。シンセでシーケンスを組むことを前提にしない(PCとの連携を前提にした)機材が増えてきた、ということでしょうか。

YAMAHA EX7 また鍵盤のタッチに関しても、業界でも屈指で定評がある「FS鍵盤」を採用しており、一度触ると思わず一曲そのまま弾きたくなるほど(笑)。FS鍵盤に関しては、各機材ごとに細かいチューニングが施してありますが、あくまで個人的私見を言えば、最新音源「MOTIF」を含め、今のところこのEXよりタッチ感の優れた鍵盤を私は知りません。

一方で、EXにも弱点はあります。シーケンサーにバグはあるわ、音はもたるわで、全く使い物にならないということ(特にシーケンサーはさすがYAMAHAといえる程使い勝手がいいので、非常に残念です……)、ドラム音色が有史以来類を見ないほどのダメッぷりで光っている、ということです(爆)。このドラム、いい音はするんですよ。でもねぇ……ドラムに限らず「いい音」というのと「使える音」というのは別だと思います。ここら辺「MOTIF」のドラムもEX系統の「リアル系」音色ですが、こちらはちゃんと使える音色だと感じます……。あとはDSP処理上の問題から複数の音源を大量に使ったマルチ演奏が出来ないとか、VLがモノフォニックだったりと同時発音数に難があるとか、INDIVUAL OUTPUT(パラアウト)がデフォルトで2チャンネルしか装備していない(複数出力するには別途増設しなければならない)というのも痛いところです。

ただまぁ、これらの点を除けば、非常に作りこめるし、作りこみがいがあるシンセです。

あと、極めて個人的な趣味を言えばそのルックスも大絶賛です(笑)。グッドデザイン賞も受賞しています。ダークブルーの筐体に適度に丸みを帯びたボディー、素人目でも一目見て高級シンセと分かるような重厚感と存在感が好きです。限定発売でシルバーモデルも発売されましたが、どちらを買うのか悩みもしませんでした(笑)。デザインはもちろんMOTIFもいいのですが、あれはどちらかと言えばヨーロッパ系のデザインと言うか、車で言うとガタイがやたらでかくて頑丈なアメ車、でしょうか(笑)。EXほどの洗練さは感じられないような気がします(かなり主観が入った感想なのでMOTIFユーザーの方は怒らないでね(苦笑))。

流行り系の音もあるにはありますが、例えばKORGのTRITONシリーズのように流行り廃りが激しくてすぐに古臭くなってしまうようなことはなく、一台持っていれば長く使える一台ですね。音源を複数駆使してのプロレベルでの制作で、ここぞと言うところでアクセントをつけるようなときに重宝するような機材だと思います。

……なんだか褒めてるんだか貶してるんだか分からんレビューだなぁ(汗)。私個人はなんのかんのいっても気に入ってる機材です(笑)。

【EX5お気に入りの音色】

  • Stereo Piano(ピアノ)
  • CP80(エレピ)
  • Bright Strings(ストリングス)
  • PointySquare(リード)